AlGaN(Aluminum Gallium Nitride)/GaN(Gallium Nitride)-High Electron Mobility Transistor (HEMT) の保護膜,および絶縁膜の堆積プロセスの最適化
まず本研究は,三菱電機株式会社と奈良先端科学技術大学院大学 情報機能素子科学研究室の共同研究の一環として行われ,契約で,「研究成果を第三者に開示する場合,30日前までの通知が必要」と定められています.また,貴社の2020年度,新卒採用の選考案内を頂いてから,私が本研究テーマ内容のレジュメを作成し,情報開示の許可を経てから,本書類の提出までの期間が足りず,現在までの成果の全てを省略することを陳謝します.従って,本レジュメでは研究成果を除く,研究の背景および,アプローチの概要を説明します.
最初に,本テーマの背景は情報技術における,扱うデータ量の増大にある.図1に示すようにInternational Data Corporation の報告[1]によると,情報化社会の成長に伴い使用されるデータ量も年々増加の傾向をたどり2020年には扱うデータ量がおよそ40×1021 Byte (40ZB) まで上ると予想されている.またこれに伴い,従来の通信の回線 (4G) では通信の混雑化が必然となり,新たな周波帯,そして新たな高周波デバイスの開発が要求される.
図2に,電気情報通信学会が公表しているデータ[2]を基に作成した,電波の周波数とその大気中における減衰量(海抜高度から天頂方向)の関係,および現在利用されている周波数帯,および本研究の目指す周波数帯のカラーマップを示す.
図1 累積データ量の予想 図2 電波の周波数と減衰
現在,スマートフォンやパソコンは図2の黄色のパートで示す3.5 GHz 程度の4G回線と呼ばれる周波数帯を使用している.また,既存のデバイスでは,三菱電機株式会社のGaN-HEMT系の高周波デバイス(ME-GaN-HF device)の”MGFG5H3001”が最も高い周波数で動作するデバイスの1つであり,図2中では,緑の30 GHz 付近の領域を占めている.
また図2から,従来の4G 回線の場合と比較して,30 GHz を超える赤の領域(Future)の周波数帯の電波は大気中で大幅に減衰することもわかる.よって,高周波デバイスを開発する上で,デバイスの高周波動作の他,デバイスの高出力化が要求されることがいえる.
そのデバイスの高周波動作,および高い出力を可能にする材料として注目されているのが,GaNである.このGaNはAlGaNとの接合界面に二次元電子ガスと呼ばれる電子の層を誘引する.この二次元電子ガスが高い移動度 ( =電子の動きやすさを示す物理量 : 2,000 cm2/(V.s))[3],および高い飽和速度 (=電子が早く移動できるかを示す物理量 : 2×107 cm/s)[3]をもつことから,高周波動作が可能である.また,GaN自身が高いバンドギャップ ( =材料の電気的な強度を示す物理量 : 3.4 eV)[3]を持つことから,GaNは特に,高出力の高周波デバイスへの応用がされている.また,このGaN高周波デバイスの開発にあたって,デバイスの高寿命化,および高出力化のために,優れた保護膜,絶縁膜の堆積が必要になる.そこで私は保護膜,絶縁膜として高いバンドギャップ,誘電率をもつアルミナ (非晶質Al2O3)[4] と呼ばれる材料に注目した.
また,一般的な化学的,または物理的堆積手法と比較して良好な膜質を得ることが可能なALD(Atomic Layer Deposition)と呼ばれるプロセスがある.しかし,優れた膜質を得られる反面,ALDでAl2O3を堆積する場合,原料となるTMA(Tri-Methyl-Aluminum) と呼ばれる材料には炭素が含まれ,これがプロセス中に,酸化・還元される過程で炭素イオンになり得る.炭素イオンは電子輸送の担い手となり,膜中での電流リークの原因となる.この電流リークはデバイス動作時にノイズを生むため,望ましくない現象だ.
そこで,私は,従来のALD-Al2O3堆積プロセスの一部を改定することで,プロセス中の炭素混入が軽減できると期待し,現在はAl2O3を絶縁膜として利用した場合のデバイス動作を,従来通りと新プロセスの間で比較し,新プロセスの評価・最適化を行っている.絶縁膜としての評価を今年度中に完了する予定で,成果がまとまり次第,来年度は保護膜としてのALD-Al2O3堆積プロセスの評価を行う予定だ.
参考文献
[1] J. Gantz, D. Reinsel, “IDC's Digital Universe Study”,EMC,2012
[2]今井哲朗,” 電子情報通信学会『知識の森』”, 2013
[3]B.Gil,”OXFORD SCIENCE PUBLICATIONS Ⅲ-Nitride Semiconductors and their Modern Devices,2013”
[4]T.Kimoto,J.A.Cooper,”Fundamentals of Silicon Carbide Technology : Growth , Characterization , Devices , and Applications”, 2014
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