100番 読書
『ショッピングモールでの読書体験』が保護者に支持されるワケ
2050年、春。
デジタル化が進み、人々の生活も変化した。
30年前の2020年ごろは電子書籍vs紙書籍での論争が起きていたが、トレンドが周回するファッションの流行のように紙の本ならではの良さが再確認され、また、便利な電子書籍はさらなる飛躍をとげた。消費者はコンテンツを様々なかたちで楽しんでいる。
そんな中、都内某所のショッピングモールで読書イベントが開かれた。イベント、といっても特別な催しではなく、毎日開催されているものだ。
最近の“読書“は、子供だけでなく保護者も喜ぶ、教育に良い、暇つぶしになるーーそんな夢のような形へ変貌しているらしい。
◎ 子育て
私達みたいな若い家庭だと、子供をあやすのはスマホの役目だし、子供の目に文字が触れる機会が格段に減っている気がしていた。此処に来れば子供たちは喜んで遊ぶし、童話や絵本がスクリーンに表示されて、皆で音読したりしてて勉強にもなるし、私はゆっくりコーヒーが飲める。良いことづくしです(31歳主夫)
◎書籍離れを食い止める鍵となる
ネット以外で文字を見る機会が減っていることに危機感を感じてはいました。実家では新聞を取るのをやめた。時計はスマホで確認できるし、カレンダーはスケジュールをスマホのアプリで管理できるので必要ない。
ショッピングモールのは幼児向けのイベントだけど、それの派生イベントとして図書館開催のものがあり参加しました。好きな漫画家さんが登壇したから。新刊発売イベントを図書館で開くんすよね、最近、出版社って。しかも漫画の。びっくりした。本屋でやるもんじゃないの?笑 おかげで普段なら手に取らない本、見つけて。図書館の本だから立ち読みじゃなくてゆっくり読めて良かった。読んだら欲しくなっちゃって、そしたら司書さんがちかくの本屋を紹介してくれた。こういう取り組みが各地で計画されているらしい。おかげで最近読書の楽しさを思い出した。(19歳大学生)
◎家庭での教育格差を埋めることも
今時の中高生はスマホを手放せない、デジタルネイティブ世代にあたる。
15歳を対象に実施されるPISAの読解力テストでは、順位が下がり続けている。この一因となっているのが家庭での環境である。小学校低学年では学校よりも家庭で過ごす時間のほうが長い。家庭で得られる語彙力は家庭環境や地域差はあるが、全体的に下がっている。語彙力という基盤がないと読解力は下がるし、小学校中学年になると国語の成績に差が出始めてしまう。本や教科書の読み方や、板書の読み方に決定的な差が生まれる。
こうした中、誰もが気軽に訪れるショッピングモールでこのような活動が広がっていくのは良いことだと思う。期待できそうである。
(56歳 小学校教頭)
本屋×図書館×ショッピングモール
共同イベント開催で見えてきたもの
今回本誌が取材したショッピングモールでは、別階のキッズスペースとは別に一階にある広場が活用されている。
子供達が集まり、その様子がリアルタイムで大きなスクリーンに表示されている。親は広場で動き回る子供を、近くのベンチに座りながらスクリーンで確認できる仕組みだ。
スクリーンに表示された文章を幼児が音読する。動き回る文字を探す。有名な童話をモチーフにした世界観を広場全体に施す。小学生向けのイベントでは教科書に載っている物語の人気投票や、著者の別作品紹介などが行われている。
そうして遊んだあとは、ショッピングモールにある本屋に寄ってみよう、という気になる。子供たちは「本は面白いものだ」と認識する。
また、ショッピングモールと図書館も手を取り合っている。広場に図書館の本を置き、子供たちが気になった本を家で何度も長く読むために本屋で買おう、と利用者を誘導している。
貸本屋と言われ出版社や本屋から嫌われていた図書館だが、読書活動を推進するため協力関係を結んだのだ。
そしてそうした環境で育った子供達は活字と書籍に親近感を抱く。こうした仕組みが確立すれば、若者の活字離れを防ぐことにも繋がりそうだ。
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