【テーマ】
「トランス脂肪酸(TFA)の健康への影響評価」
【要約】
食品中に含まれる、身体に悪影響を及ぼすとされている油の研究です。様々な種類の油を合成し、マウスに投与することで、代謝のされ方の違いを調べます。また、市販食品中に含まれる油を分析することで、我々が実際に摂取している油の量や種類を調べます。
【背景】
三大栄養素の一つである油脂は、生命を維持する上で非常に重要な成分です。油脂の構成成分である脂肪酸は炭素鎖の二重結合の有無により、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分類することができます。さらに不飽和脂肪酸の炭素間の二重結合は、シス型とトランス型に分類できます。自然界の脂肪酸の大部分はシス型ですが、トランス型の脂肪酸であるTFAの発生要因としては、反芻動物の体内における生合成、油脂の加熱・脱臭・水素添加が挙げられます。また、油脂への水素添加はマーガリンやショートニングを作る際に行われます。油脂への部分水素添加をはじめとする人工的に生じたTFAを工業型TFA、ウシのような反芻動物由来のTFAを天然型TFAと呼びます。工業型TFAと天然型TFAの違いとして、炭素鎖の二重結合の位置が異なることが挙げられます。
工業型TFAを過剰摂取した場合、動脈硬化などに起因する心疾患発症リスクを高めることが疫学調査により明らかになっています。そのため、国際連合食糧農業機関(FAO)や世界保健機関(WHO)は、TFAからの摂取エネルギー量を、1日の摂取エネルギーの1%未満にすることを推奨しています。そして、米国食品医薬品局(FDA)は部分水素添加油の食品への使用を全面禁止しました。
一方、天然型TFAは抗がん作用を持つことが示唆されていたり、心臓病との関係が明らかになっていなかったりしているのが現状です。
上記より、TFAにおける二重結合の位置の違いによる健康への影響は異なることが示唆されています。そこで本研究では、TFAの二重結合の位置の違いに着目し、健康への影響について調査しました。
【方法】
実験1. TFA位置異性体の合成
13種類のTFAを自ら合成し、安定同位体でラベル化しました。
実験2. 動物試験
消化されやすいようにTFAを乳化させた後、マウスに強制経口投与しました。呼気ガス採取前5分間はマウスを容器に閉じ込め、投与後0分から240分まで呼気ガスを経時的に10本採取しました。
実験3. 市販食品中のTFA分析
市販食品から油脂を抽出し、TFAのみを分離しました。誘導体化後、ガスクロマトグラフ-水素炎イオン化検出器に供しました。これにより、食品中に含まれるTFAの量と種類を分析しました。
【結果、考察】
実験2において、各TFAに燃焼性の違いはなく、二重結合がトランス型になることでの影響もないことが明らかとなりました。そのため、TFAはシス型の脂肪酸と同様に健康に悪影響を及ぼさないことが示唆されました。しかし、今回の研究では脂質蓄積性や血中コレステロールへの影響については評価できなかったため、これらを考慮した研究を行うことが今後の課題だと考えられました。
実験3において、市販の食品中にTFAは存在していましたが、その含有量は微量でした。そのため、一般的な食事を行っている限り、摂取基準を超えることはないと考えられました。
【今後の予定、社会への貢献】
より多くの食品に関して、TFAの分析を行います。これにより、食品の安全性の強化に努めます。また、TFAの安全性を明らかにすることで、TFA摂取基準の緩和につながると考えています。これにより食品の輸出に追い風をもたらし、食品業界の発展に貢献します。
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