研究のテーマ「Nb(ニオブ)-Ti(チタン)(Ni(ニッケル),Co(コバルト))合金の水素透過特性」
1.研究背景・目的
近年,燃料電池を中心とする水素社会に向け,水素の精製方法が注目されています.水素は天然ガス等を水蒸気と反応することで得られます.しかし,純度は高くなく,副生成物として含まれる一酸化炭素等が燃料電池の性能に悪影響を及ぼします.そのため水素精製のプロセスが必要です.現在は,吸着材を用いた精製方法がとられていますが,装置が大型となるという問題点があります.燃料電池を身近に普及させるためには装置の小型化が不可欠です.そのため,コンパクトな設計が可能な膜分離法を用いた水素透過合金に着目しました.これはフィルターの役割を持つ合金が水素のみを透過させ,不純物を分離する方法です.現段階では,この合金の主な材料にPd(パラジウム)が利用されていますが,価格が高く資源量に乏しいといった問題があるため代替合金が求められています.水素透過合金には水素透過性と耐水素脆性の2つの相反する性質が必要です.そこで私は,水素透過性を担うbcc相と耐水素脆性を担うB2相から構成され,2つの性質を両立するNb-TiNi合金とNb-TiCo合金に注目しました.一般的に,水素透過性は水素透過度Φで表され,これは水素拡散係数Dと水素固溶係数Kの積で定義されます.
Φ = D × K (1)
実用上は,機械的特性の観点からこの2つを組み合わせた合金の使用が想定されます.加えて,特性の異なる2つの合金を合成することでDやKの値を増加させ,Φの高い合金を開発できる可能性があります.そこで,本研究ではNb-TiNi合金のNiに一定の割合でCoを置換したNb-Ti(Ni,Co)合金のΦ,D,Kの関係を調査し,水素透過性に及ぼす影響を明らかにすることを目的としています.
2.実験方法
アーク溶解で合金を作製し,放電加工機で直径12 mm,厚さ約1 mmに加工しました.試料両面を表面研磨し,合金表面の酸化防止と水素分子の解離・再結合を促す触媒としてDCスパッタリング装置を用いて試料の両面に190 nmのPd膜を被覆しました.水素透過試験は温度523~673 K,供給側圧力0.2~0.6 MPa,出口側圧力0.1 MPaで行いました.
3.実験結果と考察および今後の展望
Nb-TiNi合金とNb-TiCo合金のΦを支配する因子が異なり,Nb-Ti(Ni,Co)合金のNiリッチ側ではKが,Coリッチ側ではDが水素透過に大きく寄与していることがわかりました.また,一定量のCo置換までΦはほとんど変化しませんでした.これは Dの増加に対してKの減少が大きいためであると考えられます.しかし,一定量を超えるとCo置換するほどΦは増加しました.これはKの減少に対してDの増加が大きいためであると考えられます.今後は,bcc単相合金とB2単相合金のΦ,D,Kの関係を調査し,bcc相とB2相が複相合金の水素透過性にどのような影響を及ぼしているかを解明します.
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