最近はスーツの売り上げに関するニュースに関心がある。青山商事は、本体39,000円~のオーダーメイドスーツで売り上げを伸ばしている。他社が販売する、2着で5万円以下のスーツと比較すると強気を感じさせるが、なぜ売れているのか。それはタブレットを使用した、リアル画像システムのためである。顧客の周りを店員がタブレットを持ってまわり、顧客の頭部の3D画像を作成する。これをアバターのように活用し、未完成のスーツを顧客に"視覚的に"試着させるのだ。私がこれに関心を持った理由は、この売り方が現代の消費者傾向にうまく対応できていると考えられるからだ。これには3つの例がある。1つ目は、これがうまく顧客を"納得"させていることだ。バブル時代では納得よりも"勢い"で物を買う傾向が目立っていた。しかし最近は消費税増税が追い風となり、消費者は納得するまで支出により一層消極的になっている。これを逆手にとって最新の技術を使うことで、従来の"イメージと実際の差"を狭めることに成功し、購買意欲を促進できていると考えられる。2つ目として、説得の材料に画像を用いていることが挙げられる。写真1枚にはおよそ3,000~4,000字の情報が含まれていると言われている。しかし想像してみると、この情報を文字化して「読む・聞く」よりもビジュアル化して「見る」方が理解されやすいのは明白だ。さらにこれを3D化することで、3D映画や展覧会の3Dチラシに興味を示す現代の消費者に巧みにアプローチできているのだ。最後に3つ目に、このマーケティングが「体験型」に乗っ取っているだけではないことが挙げられる。最近は「手元には物として残らないが、日常では味わえない特別な体験」を体験することに注目が集まってきている。例えば、VRやドイツ発祥の小学生のための実践型職業体験といったものだ。これに対してこのビジネスでは、タブレットを使って顧客の3D画像を作り非日常の体験を可能にするだけではなく、物(スーツ)として顧客に「目に見える思い出・達成感を思い出させるような作品」として提供することで、顧客に体験と物の2つが得られるというお得感を感じさせると同時に、購買意欲を高めることを上手くやってのけている。これら3つの要素から、私はこのビジネスに革新的な戦略を感じるとともに、魅力を見い出した。
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