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近年，患者さんへの負担が小さいがん治療法として光線力学療法が注目されています。光線力学療法は，光と光増感剤を用いたがん治療法です。私は，その光線力学療法への応用を目指したトリプル pH応答性光増感剤の研究をしています。まずは，光線力学療法がどういうがん治療法なのか簡単に説明します。光線力学療法では，まず腫瘍集積性の高い光増感剤を静脈投与します。その後，時間を置くと光増感剤がある程度選択的に腫瘍に集積します。腫瘍に集積した光増感剤に光を当てると，光増感剤が励起され，活性酸素種の一つである一重項酸素が生成します。この一重項酸素の高い酸化力によって腫瘍を壊死させることができます。また，多くの光増感剤は蛍光という光も発するため，この蛍光を利用することで，治療と同時に腫瘍を診断することができます。しかし，正常組織にもある程度光増感剤は分布してしまい，そこに光が当たると光増感剤が作用してしまうという問題があります。正常組織で光増感剤が作用してしまうと，正常組織にダメージを与えてしまい，これが光副作用となります。この解決策として当研究室では，腫瘍特異的なトリガーである低pHによって光増感剤の光活性を制御できるトリプルpH応答性光増感剤を開発しました。この光増感剤は，中性条件では近赤外光の吸収効率，蛍光量子収率，一重項酸素の生成量子収率の3つが低い値を示すトリプルOFF状態です。一方，酸性条件では，近赤外光の吸収効率，蛍光量子収率，一重項酸素の生成量子収率の3つが高いトリプルON状態にスイッチングします。これにより，高い腫瘍選択性が期待でき，治療において低い光副作用と高い治療効果の両立が期待できます。私は，このトリプルpH応答性光増感剤の活性化メカニズムの解明とさらなる改良を目指しています。 続きを読む

私は，患者さんへの負担が小さいがん治療法である光線力学療法に用いる光増感剤の研究をしています。光線力学療法では，腫瘍に集積した光増感剤に光を照射することで生成する一重項酸素の高い酸化力によって腫瘍を壊死させます。また，多くの光増感剤は光を当てると蛍光という光も発するため，この蛍光を利用して腫瘍を診断できます。しかし，この治療・診断の問題点として，正常組織に分布した光増感剤に光が当たっても作用してしまう問題があります。この問題を解決するために，当研究室では腫瘍特異的なトリガーである低pHにより，光増感剤の光活性を制御できるトリプルpH応答性光増感剤を開発しました。この光増感剤は，中性条件では近赤外光を吸収できず，たとえ可視光を吸収したとしても，蛍光や一重項酸素を生成しないトリプルOFF状態です。一方，酸性条件では，プロトン化により近赤外光を吸収できるようになり，蛍光や一重項酸素が生成するトリプルON状態にスイッチングします。つまり，腫瘍のみを光らせることができ，腫瘍のみにダメージを与えることができるので，従来の光増感剤よりも非常に高い腫瘍選択性が期待できます。 続きを読む

近年，患者さんへの負担が小さいがん治療法として光線力学療法が注目されています。光線力学療法は，光と光増感剤を用いたがん治療法です。私は，その光線力学療法への応用を目指したトリプル pH応答性光増感剤の研究をしています。まずは，光線力学療法がどういうがん治療法なのか簡単に説明します。光線力学療法では，まず腫瘍集積性の高い光増感剤を静脈投与します。その後，時間を置くと光増感剤がある程度選択的に腫瘍に集積します。腫瘍に集積した光増感剤に光を当てると，光増感剤が励起され，活性酸素種の一つである一重項酸素が生成します。この一重項酸素の高い酸化力によって腫瘍を壊死させることができます。また，多くの光増感剤は蛍光という光も発するため，この蛍光を利用することで，治療と同時に腫瘍を診断することができます。しかし，正常組織にもある程度光増感剤は分布してしまい，そこに光が当たると光増感剤が作用してしまうという問題があります。正常組織で光増感剤が作用してしまうと，正常組織にダメージを与えてしまい，これが光副作用となります。この解決策として当研究室では，腫瘍特異的なトリガーである低pHによって光増感剤の光活性を制御できるトリプルpH応答性光増感剤を開発しました。この光増感剤は，中性条件では近赤外光の吸収効率，蛍光量子収率，一重項酸素の生成量子収率の3つが低い値を示すトリプルOFF状態です。一方，酸性条件では，近赤外光の吸収効率，蛍光量子収率，一重項酸素の生成量子収率の3つが高いトリプルON状態にスイッチングします。これにより，高い腫瘍選択性が期待でき，治療において低い光副作用と高い治療効果の両立が期待できます。私は，このトリプルpH応答性光増感剤の活性化メカニズムの解明とさらなる改良を目指しています。 続きを読む