北川企画「午前五時、立岩展望台にて」その男は子供の頃から勉強も出来たし頭も回っていわば神童と呼ばれていた。周りの友人たちを見下すような態度をとるうちに、友達はいなくなり勉強に打ち込んで進学校に進む。秀才達に囲まれて成績は落ち、喫煙の謹慎をうけたりするうちに更に成績は落ち込んでしまい、友人たちからも見下されると感じたが、ある友人の一人の励ましでなんとか東京大学に入学を果たす。だが、再び勉強しなくなった男は、ある時学生劇団の門を叩き、気の合う友人が出来た。ちょうどその時、高校時代に慰めてもらった友人が自殺をし、それをきっかけに大学を中退した。仲間と劇団を旗揚げし、バイト先に恋人を作り気持ちを切り替えた。これは、 ヘルマン・ヘッセ「車輪の下」を原作にとり、 周囲を見下していたために友人をなくし、やがて勉強で落ちこぼれていくなかで「独りになること」への強い恐怖心を抱きながら、劇団や恋人との関係を今度は切りたくはないと恐怖を抱きながら、自分の頭の中のエゴを抑えられず人とぶつかっていく葛藤を描いていく。物語終盤は正解のない鬱々とした袋小路のなかで、前に進もうともがく作家自身のかっこわるい姿をそのままさらけ出すよう。 芝居を作ることだったり、文章を書くことだったりの余裕とか地頭の良さを感じさせる作家で、悩むことないじゃんと思ったりもするけれど、彼自身にとっては切実なことをさらけだす。原作に重ね合わせるというギミックと前半のコミカルで軽い調子のおかげでだいぶ見やすくなっている作品でした。この演劇は、カムヰヤッセンという劇団の演出家を務めている北川大輔さん自身の「自伝」をさらけ出した作品です。彼は現在29歳。出身は鹿児島。東京大学中退で、演劇の道へ進むという異例の経歴の持ち主。王子小劇場の芸術監督。主な代表作は、めざましテレビ「紙兎ロペ」の脚本など、小劇場界では期待の若手。
彼はこう言います。「テレビというメディアはあと20年で終わりを迎えると思う。人類は直で気持ちを伝える手段を手放すことはしない。電話がその主な例だ。また必ず演劇がブームになる時代が来る。」その情熱と、北川さんの知性溢れる作品に、私は感銘を受けました。
今後も非常に期待しています。是非とも一度カムヰヤッセンの作品に足を運んでみてはいかがでしょうか。
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