私が光文社でやりたいことは、「流行っているものが今なぜ流行っているのか」または「世間で言われているある命題は実は一側面でしかないのではないか」ということを、その知見がない人にもわかりやすく伝える本を作ることです。とりわけ、ある文化に対し、それほど興味を抱いていない人を「読者」にする本を作りたいと考えます。
例えば、「VOCALOIDは『オタクのよくわからない文化だ』と思われていて文化的にどのような意味があるのか議論されていない」と私は4年ほど前に感じ、多方面からVOCALOIDという文化現象について考えたいと思い現在の学部を志望しました。そうしているうちに『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』という、文化現象としての初音ミクについて深く言及している本が発売されました。この本では、初音ミクを音楽史や映画などの文脈で捉えることでオタク文化がよくわからない人にも初音ミクがよくわかるように書かれています。そしてオタクだけじゃなく、プロのミュージシャンやアーティストも使い始めたことも言及されており、「オタクのよくわからない文化」という意味のみではないということも証明しています。
文化が分かる人にどれだけわかる形で分析・説明をしても「これは合ってる」「ここは違う」という議論にしかなりません。しかしそれを外に向けて行えたら、「わからない」「くだらない」と感じている人にも説得的に伝えることができたら、それはその文化を流行や一部分での盛り上がりで終わらせるのではなく、社会に位置づけることができます。例えば、娘がハマっているVOCALOIDについてよくわからないお父さんが本を通して自分の聞いていた音楽との接点を見つけて、娘と一緒にVOCALOID音楽を楽しめるようになるかもしれません。
外から見たら「よくわからない」「くだらない」文化は、たくさんあります。エナジードリンク、「あったかいんだからあ〜」、Twitterのクソコラ・クソリプ、『ラブライブ!』をはじめとするアイドルアニメなど、むしろ情報が簡単に手に入り、文化が乱立している今だからこそ、その「わからなさ」を語り・伝えていく重要性は増しているように思えます。そのトピックのひとつひとつを解きほぐし、文化現象として位置付けつつも、その文化の外側にいる人にもその良さをわかってもらい、受け入れてもらえるような本作りをしたいです。
俗っぽく・重要なことや詳細を切り捨てた「わかりやすさ」でもなく、学術的すぎてとっつきにくい訳でもなく、ちょうどいいバランスで文化・社会についての気付きを与えてくれる。そのようなわかりやすい本をたくさん出している光文社新書は、こうした私のやりたいことに取り組める最適な場であると思っています。
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