細胞間脂質の水分保持機能の発現機構解明を目的にした新規光干渉断層計(OCT)の開発です。角質層は、角質細胞と細胞間脂質から形成されており、体内の水分量を保持する水分保持機能を有しています。このうち私は細胞間脂質に着目しました。細胞間脂質は、親水基と脂質二重層がサンドイッチのように交互に重なったラメラ構造を形成し、層周期が13.6nm(長周期ラメラ構造)と6.0nm (短周期ラメラ構造)の2種類を形成しています。また、脂質分子たちが規則正しく配列された結晶構造として六方晶と斜方晶が存在しています。こうした構造を持つ細胞間脂質を構成する脂質分子であるセラミドや遊離脂肪酸などの組成比が、皮膚疾患により異常が起きると、角質層全体の水分量が減少します。このことから、角質層にある細胞間脂質の水分保持機能は皮膚の保水に大きく関わっていると考えられています。そのため、水分保持機能の発現機構を解明することは、保湿化粧水や塗り薬などの分子設計に重要です。さらに、水分保持力の新しい診断にも活かされます。これまでの先行研究で、長周期ラメラ構造は水分を保持せず、短周期ラメラ構造は50℃まで温度を上げても結合水として強く保持し、角質層の正常な水分量(20~30wt%)になるように調節している事が明らかになりました。しかし、その発現機構はだ解明されていません。そこで私は、細胞間脂質を構成する脂質分子の親水性官能基と、水分子との分子間相互作用にその原因があると考えました。この仮説を検証するためには、1µm未満の領域にある細胞間脂質の脂質分子の官能基を計測する必要がありますが、従来の手法では計測できません。そこで、「微小な構造の計測」と「分子種の識別」を同時に達成できる、独自装置の開発に挑戦しています。これまでに、これらの同時達成の前段階となる「微小な構造の計測」が可能なMirau型顕微OCTの開発を達成し、モデル皮膚試料の計測に成功しました。また、顕微鏡下で「分子種の識別が可能」なコヒーレントアンチストークスラマン散乱(CARS)顕微鏡の開発を達成し、脂質分子の計測に成功しました。今後は、開発した二つの装置を融合させ、ヒト皮膚と類似している動物表皮を用いて、構造と分子種の同時計測に挑戦します。そして、水分保持に関わる脂質分子の親水性官能基を観測し、角質層の水分保持機能の発現機構を解明していきます。
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